赤矢印:閉口筋の作用方向 / 青矢印:下顎骨の筋による牽引方向
閉咬筋の力の作用を臼歯(奥歯)で受け止められなくなると、下顎は筋(おもに咬筋・側頭筋)に牽引され後上方に移動しやすい状態となる。 下顎頭による負荷を受け止めた関節円板が前下内側にズレると下顎頭はさらに後方、外側に移動し、結果として臼歯のかみ合わせが低くなることがある。  この状態にあわせて歯冠修復がおこなわれると、関節円板が元の位置にもどると奥歯が噛めないで前歯が強くあたるように感じられ、開口時関節円板が下顎頭に乗る瞬間にはクリック音が発生することもある。 (左下図は変化のない場合) 一般に臼歯部位の後方多数歯を同時期に歯冠修復する場合は何らかの安定性の良い材料で、あらかじめ上下顎の咬合関係を記録するか、咬合支持歯の咬合面の一部を削除せずに保存しておくことが賢明であろう。 なおCR(Centric Relation)=中心位は咬合診断の基礎であるが、全顎的補綴が行われる場合、最終的支台歯歯列模型がマウントされた咬合器上において、後方臼歯のクリアランスが著しく減少していると観察される場合は、やはり関節円板が介在されない状態で中心位記録が採得されたと考えて間違いない。  この状態で製作された修復物が装着された口腔内はいわゆる低位咬合となるが、心理面にあたえる影響が無視されれば、それが必ずしも顎関節の病的な負荷の増大につながるか否かは、歯軋り、噛みしめの発現に依存するだろう。