神経を取った歯の歯根破折について

目次

失活歯のハセツ

 失活歯(以前ムシ歯で歯髄を取った歯や歯髄がいつのまにか壊死した歯)は象牙質の新陳代謝がおこなわれず時間とともに粘りのない脆弱な歯質となり、かみ合わせの過大な圧力により歯根に亀裂が入ることがあります。 失活歯では金属ポストやファイバーポストという様々な築造体が用いられますが、必ずしも築造体の材質がこの歯根破折に影響を与えるとは限らず、就寝時の噛みしめ力や残存歯質の健全性に依拠することが大きいように考えられます。 ハセツの入り方にはいろいろなパターンがありますが、大部分は垂直性の ”薪が割れるような” 縦のハセツで、稀に水平的な歯根ハセツも見られますが、これは生活歯の外傷に多く見られます。
 ハセツ線の方向や部位、歯根実質の健全性により抜歯や一部保存の選択がなされます。 接着技法には限界があります。

歯根の垂直破折(縦ハセツ)

イーデント歯科室/垂直破折(縦ハセツ)した歯根3画像/メタルコアと歯根はせつ

歯根の水平破折(横ハセツ)

イーデント歯科室/水平破折(横ハセツ)した歯根
イーデント歯科室/水平破折(横ハセツ)した歯根

歯根ハセツの診断

 歯根が縦にハセツすると、その亀裂に口の中に常在する細菌が侵入することから歯周組織に炎症がもたらされ、ハセツ線に沿って歯根を包む歯槽骨が吸収を起こす。 そのため歯周ポケットを探ると破折領域の根の先近くまでプローブが入り込み他は健全な状態であることが多い。 歯肉の腫脹もハセツ線の存在する部位に認められ、根管の問題による根尖性の炎症が歯の根元に腫脹を発現するのに対して、歯の生え際に発現し痛みはなくとも腫れが引かない状態が続く傾向がある。 

イーデント歯科室/近心根に垂直破折が発生した下顎第一大臼歯(2根)診断と歯根分割

複根管の1根のみがハセツ状態でも、根分枝部病変や湾曲歯根途中の穿孔(strip perforation)も疑わしく鑑別診断が必要である

複根管の1根のみがハセツ状態でも、根分枝部病変や湾曲歯根途中の穿孔(strip perforation)も疑わしく鑑別診断が必要である

診断法としては

築造体が脱離して根管内壁が確認できれば、簡単に鑑別診断がされますが、一般的には以下の要件から判別されます。
1. 腫脹の発現部位は歯冠歯肉縁の上部持続期間が長い
2. 特定部のプロービング値が深い、短針による触知
3. X線画像ではハセツ線が開かないと判別し難いが、離解が始まればに通常の画像でもCT画像でも確認が可能
4. 該当部の歯肉切開で確認が容易 

イーデント歯科室/歯根ハセツの診断は腫脹の位置と局所的なポケットの深さが決め手
イーデント歯科室/歯根ハセツの診断は腫脹の位置と局所的なポケットの深さが決め手

歯根の縦のハセツでは破折線に沿って歯冠の生え際から歯根にかけて腫脹がおこる

歯根の縦のハセツでは破折線に沿って歯冠の生え際から歯根にかけて腫脹がおこる

イーデント歯科室/大臼歯の歯根ハセツ部の腫脹とハセツ線の位置
イーデント歯科室/大臼歯の歯根ハセツ部の腫脹とハセツ線の位置

イーデント歯科室/歯根ハセツ部はハセツ線にそってプローブが深く入る/上顎中切歯唇側のハセツ

歯肉溝にプローブを挿入するとハセツ線がある部位だけが根の先付近まで入り込んでしまう

歯肉溝にプローブを挿入するとハセツ線がある部位だけが根の先付近まで入り込んでしまう

イーデント歯科室/歯肉をまくると歯根にハセツ線の存在が確認
イーデント歯科室/歯肉をまくると歯根にハセツ線の存在が確認

同部の歯肉を翻展すると歯根に垂直のハセツ線が視認される

同部の歯肉を翻展すると歯根に垂直のハセツ線が視認される


歯根ハセツで離解した歯根のX線画像
歯根ハセツで離解した歯根のX線画像+矢印

歯根が離断するとX線画像にハセツ片が歯根本体から離れて認められる

歯根が離断するとX線画像にハセツ片が歯根本体から離れて認められる

歯根ハセツで前後的に離解した歯根のCT画像
歯根ハセツで前後的に離解した歯根のCT画像

CTの断層画像では前後に割れた歯根も観察が可能となる

CTの断層画像では前後に割れた歯根も観察が可能となる


築造体を外して認められるハセツ線

歯根の離開のない段階では、腫脹も無く咬むと痛い、少し”うずく”くらいの違和感を主訴としますので、失活歯では根管治療の問題も考えますが、鑑別のために通常は金属ポスト等の築造体を外して内部にハセツ線があるかを確認します。 

歯根ハセツで前後的に離解した大臼歯のメタルコア除去のハセツ線確認
歯根ハセツで前後的に離解した前歯のハセツ線確認
歯根ハセツで前後的に離解した前歯のハセツ線確認

ハセツ線が隣の歯との隣接歯根面にある場合は初期には確認がされにくい

ハセツ線が隣の歯との隣接歯根面にある場合は初期には確認がされにくい


歯根ハセツ歯の治療方法

 ある意味ほとんどが抜歯につながり、歯科修復治療のすべての努力を無意味にしてしまう歯根ハセツは、歯科医師にとって解決不能な事態です。 それ故に失活歯にさせない段階での早期の質の高い手当てが推奨されます。 ハセツが生じる歯においては、残存歯質も脆弱化しておりますので、以下の延命的な救済治療も短期的な効果しかもたない事をご理解ください。

抜歯を回避した治療法としては、
1. 大臼歯の副根管ならハセツしてない根管に築造処置をほどこし冠修復
2. 単根ならハセツが途中までであれば抜歯して浅い位置で再植(必要に応じ回転を加える)し、根管に築造処置と冠修復
参考症例1 参考症例2
3. 短根の前方歯なら抜歯して外部で歯根に接着処置を施し再利用長期保存は不可
4. 歯肉を開きハセツ線を外部から強力な接着剤で封鎖(スーパーボンド)長期保存は不可
5. 根管内からハセツ線を”えぐり”強力な接着剤で封鎖(スーパーボンド)し築造処置と冠修復長期保存は不可

上顎第一大臼歯の遠心根ハセツ後同部を抜歯して残りの2根に築造処置後金属冠修復

ハセツした遠心根のみを抜歯して残りの2根に築造処置をして歯冠修復

ハセツした遠心根のみを抜歯して残りの2根に築造処置をして歯冠修復

下顎第一大臼歯の近心根ハセツ後同部を抜歯して遠心根に築造処置後ジルコニア冠修復(小臼歯にレストシート)

ハセツした近心根を抜歯して残りの遠心根に築造処置をして歯冠修復

ハセツした近心根を抜歯して残りの遠心根に築造処置をして歯冠修復

上顎小臼歯の歯根内面のハセツ線を広げ強力な接着剤(スーパーボンド)を用いファイバーポストとレジンで築造

歯根内面のハセツ線を広げ強力な接着剤(スーパーボンド)を用いファイバーポストとレジンで築造

歯根内面のハセツ線を広げ強力な接着剤(スーパーボンド)を用いファイバーポストとレジンで築造



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