食を支える

 年齢を重ねても「食べられる」ことは、人生の豊かさそのものです。
歯が揺れる、失う、噛む力が弱っていくと、好きな食べ物をあきらめたり、食事の楽しみを失ってしまうことがあります。  歯科は失われた機能を再建し生活を支える医療です。 高齢の方々の“食べる力”を支えることで、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を改善し日々の食事を安心して楽しめるようにする役割があります。

 食べることは、身体の栄養だけでなく、心の栄養でもあります。 家族や友人と食卓を囲み、笑顔があふれる時間を持つこと。 それは健康長寿の秘訣でもあります。 「もう歳だから」とあきらめないでください。 歯科の力で、もう一度 “食べる喜び” を取り戻しましょう。

高齢者歯科の実際

 日本歯科医師会の掲げる”8020″といった80歳で20本の歯を残そうという活動は、親知らずを除き成人に揃う28本の永久歯を8本程度の喪失で抑えれば、咀嚼機能も維持され栄養状態が良好な老後を過ごせるであろうことが骨子となっています。 

 しかしながら一般的な歯科治療であってもお歳を召された方では難易度が上がります。 全身的な健康状態が低下気味であれば短時間の治療でも辛くなりがちで、局所麻酔薬にもドキドキ感がやまないこともあります。 型取りではムセてもしまいます。 治療椅子の背もたれ角度によっては腰にも負担がきます。 脊柱管狭窄症ならレントゲンの撮影にも難渋することがあります。 簡易スロープを段差に懸けて車椅子での移動が必要な方もおられます。 手先が鈍くなり億劫さも増すと歯ブラシも怠りがちになります。
 歯科医院スタッフには手慣れた経験が必要です。

 お口の状況を見れば、唾液が減ると歯の根元にムシバを作りやすくなります。 健全な歯の歯髄も石灰化すると歯質に粘りがなくなり脆弱化し健康そうな歯がポキリと折れることもよく見かけます。 歯ブラシができなくなれば一時は抑えられていた歯周病も再び進行を開始します。 
 このようななかで高齢の患者さんの独力だけでは、悲惨な口腔内になるのは避けられません。 訪問介護や高齢者施設での口腔清掃の普及は誤嚥性肺炎の軽減に寄与しているようですが、歯科医院においては咀嚼機能の維持・回復・増進が主要なテーマとなります。


 むし歯や歯周病の予防法の優しいおさらい、失なわれた歯を義歯や歯冠修復で再建する、これまでの修復状態を活かしたリカバリー治療が主体となりますが、私たちはこれまでの長年の経験から、歯の固定方法仮の歯製作、即時の義歯修理や適確な口腔機能再建の段取り設定、全身状態を考慮した麻酔法、それぞれを上手に組み合わせたサポートに精通しています。 これらすべてが、高齢の方の「おいしく、楽しく、無理なく食べられる毎日」を守るための手助けとなりましょう!

むし歯、歯周病、抜歯や入れ歯など包括的な歯科治療を行っています。

1. 全身状態の把握と安全管理

  1. 全身状態の把握と安全管理

持病・薬剤歴の確認 お薬手帳の提出
高血圧・糖尿病・心疾患・骨粗鬆症(BP製剤使用歴)・抗凝固薬などは必ず把握。

お薬手帳嚥下反射で

なるべく麻酔をしない。 局所麻酔 交感神経を刺激しないエピネフリンフリーのスキャンドネスト麻酔薬 針先35ゲージの極細針

体力・免疫力の低下を考慮
長時間治療や過度な侵襲は避け、必要に応じて複数回に分割。

バイタルサインの定期確認
治療前後の血圧・脈拍測定、緊急時対応マニュアルの整備。

2. 治療方針と優先順位

  1. 治療方針と優先順位

機能回復の優先
咀嚼・嚥下機能を確保することが第一目的。審美は二次的に調整。

低侵襲治療の選択
保存可能歯の活用、必要最小限の外科処置、義歯や暫間補綴の積極活用。

全身負担を考慮した選択肢
インプラントは全身状態・骨質・清掃能力・通院継続性を慎重に評価。

3 . 補綴・義歯の工夫

  1. 補綴・義歯の工夫

軽量で安定性のある設計
咀嚼力が弱い患者には金属床やレジン床の適切な選択。

適合調整の頻度を増やす
粘膜の変化や骨吸収が早い高齢者では定期リライニングや調整が必須。

光重合器:義歯の裏打ちをする場合に光硬化性樹脂材を利用すると口腔内での想定外の硬化によるトラブルを防げます。

インプラントを義歯の支えに変更

咬合力の分散
咬耗や咬合性外傷を避けるため、広く安定した咬合接触を確保。

4. 口腔機能・清掃指導

  1. 口腔機能・清掃指導

オーラルフレイル予防
咀嚼訓練・舌運動・発音練習などで口腔機能低下を防ぐ。

オーラルフレール
 フレイルとは加齢に伴い心身の活力が低下し、健康な状態から要介護状態へと移行する過程にある状態を指しますが、 オーラルフレイルは、むせる、食べこぼす、かたい物が食べられない、滑舌が悪いといった口の機能低下を指します。 放置すると、食が細くなって筋力が落ちたり、話しにくいからと閉じこもりがちになったりして、健康寿命を左右することにもなります。

オーラルフレールの悪循環

出典:歯科診療所におけるオーラルフレイル対応マニュアル2019年版(日本歯科医師会) 作図:平野浩彦先生

これらの悪循環は以下のステップで説明できます。

  1. 食べづらい・噛めない: 噛む力が低下すると、食べ物をうまく噛み砕くことができなくなり、食事に困難を感じるようになります。
  2. やわらかいもの中心の食事: 食べづらさから、柔らかいものばかりを選んで食べるようになり、食事の選択肢が狭まります。
  3. 低栄養・タンパク質不足: やわらかいものばかりの食事では、必要な栄養素、特にタンパク質が不足しやすくなります。
  4. 筋肉量・筋力の低下: 栄養不足、特にタンパク質不足は、筋肉量や筋力の低下を招きます。
  5. 活動量・食欲の低下: 筋肉量や筋力の低下は、身体活動量の減少につながり、さらに食欲も低下する可能性があります。
  6. 噛む力の低下: 活動量や食欲の低下、全身の虚弱は、さらに噛む力の低下を招き、悪循環が繰り返されます。

    この悪循環により最終的にQOL(生活の質)の低下につながります

この悪循環は以下のステップで説明できます。

この悪循環は、最終的にQOL(生活の質)の低下につながります

清掃具の工夫
握力低下や関節疾患がある場合は太いグリップや電動歯ブラシを提案。

口腔乾燥への対応
保湿ジェルや人工唾液、加湿環境の提案。

5. コミュニケーション・環境配慮

  1. コミュニケーション・環境配慮

ゆっくり・明瞭な説明
聴力や理解力の低下に配慮し、図や模型を併用。

予約時間・環境
午前中や体調の良い時間帯に予約、待ち時間の短縮

家族・介護者との連携
治療計画や清掃方法を同席して共有。


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